
自動演奏ピアノの歴史は古く、1900年代初頭のアメリカではロール紙をメディアにした空気動力式自動ピアノが量産されていました。
当時の自動演奏ピアノは、演奏データをパンチ穴で表現したロールペーパーをハーモニカのような空気穴のついたリーダーの前で送ることにより、穴のあいているところだけから空気が入ってきて、対応するキーが動くという仕組みでした。現在のDAWの「ピアノロールエディタ」の名前はこのパンチ穴のあいたロールにちなんでいます。
当時は、なんでも蒸気圧や空気圧で動かしていたのですね。
真空管がやっとラジオに使われはじめた時代で、主な音楽再生装置はSP盤の蓄音機でした。紙ロールを使った自動演奏ピアノは、楽器そのものが鳴るわけですから蓄音機に比べて圧倒的にリアリティのある音楽再生方法でした。これは、ピアニストが自分の演奏を販売するメディアとしてレコードよりもピアノ・ロールを選んでいたということからも伺えます。当時はラグタイムという演奏スタイルが流行し、それを収録した多くのピアノ・ロールが流通しました。
今回PianoStudio299を訪ねてくれたのは、古いピアノ・ロールを光学スキャンしたものをMIDIに翻訳してリアルてタイム出力するソフトを開発した佐々木さんです。
佐々木さんのソフト PlaySK Piano Roll Readerは、GitHubで公開されています。手元のMac/Windows PCとMIDI信号を再生できる音源があれば試すことができます。
今回PianoStudio299で収録した昔のピアノ・ロールに基づく演奏です。
ソフトウェアの画面の右側の黄色いグラフが、低域、高域別の演奏の強さを示します。
MIDIでは各ノートデータごとにベロシティが設定できますが、さほど幅の広くない紙ロールでどうやって強弱のエクスプレッションをつけているのか謎でした。佐々木さんに教えてもらったところによると、各音ではなく低域と高域それぞれについて強弱表現情報を示す特別な穴の位置が決められているということでした。これによりpp/ffの表現やクレシェンド、音域別のアクセントが表現できています。実際に聞いてみると違和感を感じさせない範囲で紙ロール上の情報量を大幅に合理化するのに成功していることに驚かされました。